恐ろしく大きな数の概念というものがある。ガンジス川の砂粒の数とか、天女の羽衣が大岩に触れてそれを磨滅させる時間とか、である。 わたしはそれを実際に具体的な数字で表わして実感してみたいと思うのだが、計算のしかたによってどうも数字が大きくふらつくような気がする。それではなんだか実体のないまやかしを有り難がっているようなもので面白くない。 大海の亀が百年に一度浮き上がってきたときに偶然浮き木の穴に首を突っ込むというのだから、まず有り得ないほどの小さな可能性である。だからその偶然が起こるまでの時間は天文学的長さに違いない。楽しみだ。 さて、大海を考えていると茫漠としてまとまらないので、こんなときは縮小、単純、いい加減化が良い。 海(これを現在の地球の海と仮定する)の広さはどれぐらいだろう。百科事典によれば361059000平方キロだという。これは楽しみだ。単位を変換しよう。1平方キロは10000000000平方センチであるから、3610590000000000000平方センチである。読んでみたい。361京590兆平方センチ。割とあっけない。 計算。3610590000000000000÷100(パイ)=11492864919563339.45・・・ 読んでみる。1京1492兆8649億1956万3339.45 100年に一回のチャンスなのだから、114京9286兆4919億5633万3945年。 (もし浮き木の穴をちょうど頭きっちりの直径10センチとすれば穴の面積は4分1となるから、年数は上の4倍となる。) 注 数字はわざと意味の無い精度まで詳しくしました。 ある浮木がゆうゆうと世界中の海を漂っている。あるときは南氷洋、あるときは陸奥湾、あるときはアドリア海、あるときはノバヤゼムリヤ島はるか沖・・・ というわけだが、この年月の数字は地球が生まれてからこれまでの年月の少なくとも約2億倍はある。亀類が出現した白亜紀から現在までの100億倍だ。 地球のどこかに一匹の長寿の亀がいてこのチャレンジを続けているのだとすれば、これまでの試みの100億倍をどうぞお続け下さい、そうすればチャンスが巡ってくるでしょう、と言って励ましてやらなければならない。 * 読者の方から、亀が全地球上の海を往来するという前提はちょっと・・・という批評をいただいた。確かに不自然だった。亀の遊弋範囲が限られるなら結果は違ってくるだろう。やり直してみよう。 100年に一回のチャンスの時に浮木が亀の行動範囲内にある可能性は、全海洋面積A分の特定範囲面積Bである。そして亀が頭を突っ込む確率は特定面積B分の穴の面積Cである。 この二つの事態が同時に起こる確率は B/A×C/B=C/A である。 なんと答えは同じになってしまうのだ。 グローバルに行動的な亀であろうと出不精な亀であろうと当たる確率はおんなじなのである。 極端に出不精の亀のバージョン。 ある浮木がゆうゆうと世界中の海を漂っている。あるときはインド洋、あるときは伊勢湾、あるときはエーゲ海、あるときはニューファウンドランド島はるか沖・・・
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