影の方向

 皆さんは下の画像がどんな風に見えるだろうか。(ダウンロードミスではないのでご安心を。)

     

 ふつう、ブラウザが確保できない画像の位置はこのように表示されるが、まるで薄いタイルを一枚はがしたように凹んで見える。

 よく見ると、左と上のふちの線は濃い色で、右と下の線は白で描かれているだけで、他には何も描かれていない。それなのに全体としてはきれいに凹んだ面に見える。一種の錯覚である。
 参考 左下部分の拡大図
 

 我々の日常の経験では、光は常に上(空)から来る。机の上では光は必ず前方(窓の方)から差す。それゆえ、影は必ず物体の下の方、手前の方に出来る。したがって、影を境にして向こうは高く手前は低く、光が当たって白い部分を境にして向こうは低く手前は高いというのが我々の感覚世界のありようなのである。

 上の例では脳は濃い線を影、白い線を光の反射と受け取り、上述の常識に従ってこの部分が凹んでいると判断しているのである。

 とすれば、線の色を逆にすれば凹むのではなく盛り上がって(浮き上がって)見えるはずだ。

     

 やはりそうである。

 いろいろな向きで試してみよう。あなたはどれがどのように見えるだろうか。

 1  2  3  4  5  6  7  8 

 上のように反時計回りに45度ずつずらしていくと、私は最初の二つと最後の一つは完全に浮き上がって見えるが、あとは凹んで見える。特に5は完全に凹んでいる。3,4,6,7は浮き上がっていると思い込むようにすればそのようにも見える。
 私の脳は無意識のうちに光源の方向を上ないし左上ないし左方向と決めてかかっているらしいことが分かる。(このことはパソコンの場所、陽射し、灯火などの方向によってやや異なってくるはずである。)

 以上は簡単な模式的な話だったが、ここで実用的な航空写真や衛星画像のことを問題にしてみよう。

 北半球においては太陽は常に南から差す。山などの地形の影は北側にできる。したがって航空写真や衛星画像を普通の地図のように北を上にして眺めると、影は我々の常識とは逆に上側の方向に出来ることになる。
 これは我々の脳にとってははなはだ難しい状況である。どう見ても山が谷に見え、谷川であるはずの所が山の稜線に見えてしまう。厄介なことに、山地の地形というものは凹凸を逆にしても極めて自然な地形に見えてしまうものである。したがって、航空写真や衛星画像を漫然と登山地図の代わりに使うと遭難につながってしまう危険性が大きい。航空写真や衛星画像で正しい立体感を得るためには必ず南を上として眺めなければならないのである。
 地形のプロの中には、この常識に打ち勝って、北を上にしたままで眺めても常に正しい立体感を得ることのできる人がいるという。素人にはなかなかできない。

 等高線を使わずに影だけで地形を表わす地図がある。その場合には影は南側に付けてある。実際の地形にできる影は北側であるが、それとは全く関係のない仮想的な影を南側に描くのである。そうしないと目で見て立体感を得る地図としては役に立たなくなってしまうからである。

 ところが最近テレビなどで衛星写真が多用されるようになって、問題が顕在化してきた。放映されるほとんどすべての画像が、普通の地図の場合に倣って上を北としているのである。これでは森林も建物もめり込んでさっぱり実感が湧かない。

  

思い切ってテレビをひっくり返してみると、あーらテキメン、街の様子が手に取るように見えてくる。

  

なぜこうしないのだろう。ほとんどの場合は差し支えがないのだから南北逆転して表示すべきなのだが、TV局の担当者はこの事情に気が付いていないのである。

画像は"Googleマップ"より

事情は写真の縮尺の大小に関係ない。

これは長年報道されてきた月面への人類初の足跡の写真である(NASAの配信を無造作にそのまま使用したものだろう)。
宇宙とか月とか、科学とか、なんだか我々には分らない難しいものなんだなあと思わせる。実は私も子供の頃そう感じた。

望ましい掲載法はこう↓なのである。(上の写真を上下ひっくり返しただけ)

これであればふつうにめり込んでいる靴跡であるとはっきり実感できる。小石の影もよく見える。ああ、あの月も自分と同じ世界の存在なのだなあと実感できる。
最初からこれを見たかったと切に思う。(今でもテレビに出てくる画像は上のばっかりである。)


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