新幹線の速度計測

 新幹線に乗っている時、友人に言ってみた。「僕は外の景色を見ているだけで列車の速度が正確に分かる。」
 ちょうどその車両には速度表示パネルが付いていて、オレンジの液晶の数字が光っている。友人は私がパネルの見えない位置にあることを確認してから、やってみろと言った。
 私は10秒ほど外を眺め、おもむろに「189キロ!」と言った。友人はパネルを見て「オオ!190キロ!すごい。」
 場所によって速度は変わるのでその後何回かやったが全てほぼ正確で、ピタリと数字が合うこともあった。友人は激しく興味を示してずっと景色を眺め続けた最後に、外を流れる電柱の間隔で分かるのだなと言ったが、惜しい。いい線を衝いているがそれでは成功しないと思う。

 高校時代、たった一駅間だけだが汽車通学をしていた。在学中に蒸気機関車から電気機関車に変わった時代だった。
 行き帰りは毎日デッキである。外を見たり、連結部分の渡り板の動きを眺めたり、ほんの数分間ではあるが基本的に退屈である。何気なく腕時計を眺めていると、汽車のガタンゴトンと秒針の動きがピタリとシンクロしている。
 「ということは、今この列車は一秒間に25メートル進んでいるわけだな。」
 鉄道のレールの長さが25メートルであることは何かの本に書いてあった。
 「すると10秒で250メートル、1分で1.5キロ、1時間で90キロかあ。」
 もう明らかであった。
 「じゃあ、10秒間のガタンゴトンを数えて9を掛ければそれが時速だ。」
 それからは毎日汽車の時速を測ってみた。滅多になかったが100キロを超えると興奮した。

車両によっては車輪の回転音も聴こえるのでその数で車輪の直径を推測してもみた。ガタンゴトンと次のガタンゴトンの間にゴロンゴロンが何回あるか聴き分けるのが難しい。25メートルをその数で割り、さらに円周率で割る訳である。この暗算にはてこずった。

 後年、運転席や車掌室の速度計が見える電車で試してみたところ、概ね正しいことが確認できた。もっと後年、デジタル表示の電車でやってみたところ、速度が安定している区間においてはほぼ誤差0〜2キロという大変な精度である。(熟練した私の端数山勘推定方式!)

 新幹線のレールはロングレールであるが、実は25メートルのレールを溶接して繋いだものだ(今はそうでないものもあるようだが)。だから25メートル毎に鈍い音がする。ゴンゴンゴンゴン・・・というような感じである。窓の外を眺めている振りをしながらチラッと腕時計を見るのは訳もないことだ。最初にゴンゴンが10秒間に21回聴こえたから21×9で189キロと答えたのだ。回数がぴったり整数でなければ適当に端数を言えば良い。熟練していなくてもせいぜい数キロの誤差で済むだろう。
(念のためだが、数えるのはゴンゴンの数ではなく、ゴンとゴンの間の数である。植木算で言えば植木の数ではなく、植木の隙間の数である。)


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