地球岬

 地球岬という名の岬が北海道にある。本当は元アイヌ語でチケップ岬と言ったのだが、そこからは地球が丸く見えるのでそう呼ばれるようになったという。

 「地球が丸く見える。」とはよく聞く話である。海に面した展望台ではみんなそう言う。実際にそんな風に見える気がする。いや、はっきりと丸く彎曲して見える。やはり地球は丸いのだ・・・・・とみんな思っている。

 だが本当にそうだろうか。

 今度のチャンスに是非確かめてみてほしい。展望台にはうまくすると鉄製か何かの手すりがあるだろう。左右にまっすぐ伸びている手すりを確認したら、目の高さを加減して水平線と手すりが重なるようにして見てみよう。

 あっ、これはなんという不思議、今の今まで大きく彎曲していた水平線が視界の左の端から右の端まで手すりの直線とぴったりの真っ直ぐではないか。(手すりの替わりに長い紐を両手でピンと張って代用してもよい。)

 納得できない人はベンチに寝そべって顔を真横にして海を眺めて見てみよう。

 はたしてこう見えるだろうか。

   

 そのときに見える曲がり具合がほんとの地球の丸さなのだが、たぶんあなたはびっくりする。

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 あっ!

   

 なんと恐ろしくまっすぐだ。きちんとまっすぐだ。どうにもまっすぐだ。

 つまり、地球が丸いことによる水平線の彎曲具合は本当は見えないのだ。

 ところが立ち上がって目を戻すとやはり水平線はぐーっと丸く見えている(ような気がする)。

 丸く見えるという現象はたしかにある。しかしどうもそれは地球の丸さを見ているわけではないようなのだ。

 今もしこの世界が球体ではなく、平らな広い広い平面であるとしたらどうであろうか。

 無限に広い平面の世界では世界の果てはどう見えるだろうか。無限に広がっているのだから果ては見えない、ということにはならない。どんなに遠くなろうと世界は目の高さより高くなるわけではないから、視界の下半分が大地または海、上半分が空であり、その境界が地平線あるいは水平線となる。
 その世界でぐるり360度近く見渡せる岬や孤島に立って海を眺めたとしよう。水平線がまっすぐ伸びている。頭を動かさずに視界の端を見ると右へも左へも水平線はどこまでもまっすぐに伸びている。
 さてそこで頭を動かさずにそのまま考えてみよう。

 この水平線は視界の先どこまで伸びているのだろう。
 いま自分の後ろの方向には水平線があるだろうか、ないだろうか。
 いま右を向くとそこにはどんな水平線があるだろうか。左側はどうだろう。
 4本の水平線がガックン、ガックンと折れ曲がって存在するのだろうか。

 そこで水平線を見ながらぐるっと一周してみよう。なんと自分は丸い水平線にぐるっと囲まれているではないか。

 世界がどんな形であっても、平面であったとしても、表面がどこまでも平らに広がっていれば水平線は我々を目の高さで360度取り巻く一本の線になる。

 話を地球に戻そう。我々は短い水平線を見ているときは意識しないが、長い水平線は自分を取り巻いて丸くつながった一本の円周の一部として意識する。しかもそれを自分より下に見下ろしている気分になっている。ところが我々の目は「全然曲って見えないほど大きな円」を見下ろしているなどということを容易に信じることができない。そのゆえに我々はそれを脳内で常識的な空間意識に合致するよう処理して、その結果彎曲していると見るのである。
 我々が水平線を大きく湾曲していると見る大きな理由はこれであって、実際に地球が有限の大きさの球体である事実によるのではないのである。だから、岬からの水平線の見え方を直ちに地球が球体であることの証拠とすることはできない。

 常識的な空間意識をクリアするとどうなるだろう。立ったまま完全に意識をクリアするのは難しいが、上記のように、もしベンチか何かがあれば寝そべって顔を真横にして眺めて見ればそれは容易に確かめられる。

 あれは中学校の図書室だったと思う。最新の図鑑に「宇宙から見た地球」という写真を見つけたときのことだ。私はいくら眺めてもその写真の中に地球の姿を捉えることがでないので戸惑ってしまった。茫漠とした良く分からない写真であったが、きっと何かの間違いで違う変な写真を載せてしまったのだろうと考えたのだが、しばらくしてひょっとしてこれが?とようやく思い当たったのであった。

 その写真は副題「人工衛星○○から見た地球」というごく細長いもので、概略下図のような印象のものであった。

  (印象のイメージ)

 この写真の黒っぽい部分にはところどころ小さな白いシミ(実はインクのゴミ)が見えたので、最初はその一つが地球なのかとも思ってみたりしたのだが、それはつまり地球は丸いものという思い込みのせいなのであった。
 もちろん地球は図の下の白っぽい部分(ほとんど雲)で、黒っぽい部分が宇宙空間、その中間が大気圏である。
 (当時この種の画像を見ることは極めてまれなことだった。)

 人工衛星の高度から見ても地球の丸さはなかなか分からないことを知り、そして宇宙空間というものがそんなに地球に近接しているものなのかということを知ったのはこの時であった。

 人工衛星から見ても地球の丸さが分かりにくいのなら、地上にいる我らが地球の丸いことを確認するにはどうしたらいいだろう。

 月食の際に月に写る地球の影が丸い、というのも一つの根拠となるだろう。

 また、遠くから近づく船は上のほうからだんだん見えてくる、という事実もある。
 簡単な計算では1Km先の海面は約8センチ下がっていると考えられる。観察者の身長を考えれば無意味な数字だ。5Km先なら2m弱。10Km先なら8m弱。
 望遠鏡を使えば船はマストの先から順に見えてくるだろう。

 しかし、海面にはうねりがある。波打ち際で遠望するなら近くのうねりの陰で遠くの船は隠されてしまう。たとえ地球が丸くなかったとしても、100m先までの複数のうねりのどれかの高さが観察者の目の高さよりたった10cm高いだけで10Km先の少なくとも10mの船は波の陰に隠れてしまう。

 観察者はうねりの高さよりも高いところに居さえすればよい。そうすれば遠くの船は(波間に上下しながらではあるが)マストの先から順に見えてくるだろう。地球は平らではないと考えることができるわけだ。


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