補講302教室

特別授業:紛らはしい「を」と「お」について

 「女」は「をみな、をむな、をんな、をうな」などと書かれます。若い女性の意味です。
 「を」には「若い」といふ意味が込められてゐるのです。「をとこ、をとめ」も同じ系統です。
 また「を」には「小さい」といふ意味もあります。「小川」は「をがは」です。「尾」や「緒」も「を」なのはこれと関係がありさうです。 

 一方「嫗」(老女)は「おみな、おむな、おんな、おうな」と書かれます。
 したがつて「を」と「お」が「小・若」「大・老」に相当する意味を言ひ分けてゐるのだと理解することができます。
 「大きい」は「おほきい」、「老い」は「おい」、「翁」は「おきな」、「大臣」は「おとど」です。「大人」の「おとな」も関係ありさうです。

 「お」の文字を「大きい『お』」、「を」の文字を「小さい『を』」と称することがあるのは上のやうな事情によります。

 ところで、「を」には「雄、牡」の意味もあります。「をのこ」「をつと」はこの系統です。
 また「おと(劣)る」には「遅れる、歳下」の意味があります。兄より若いのに「とうと」と書くのはこの系統だからです。「とひめ」もさうです。一見不統一のやうに見えますので注意が必要です。

をと おと
小・若 大・老 劣る・歳下
をとこ、をとめ おとど、おとな おとうと、おとひめ

 ちなみに、助詞の「を」を現在において「ウォ」と発音する人がありますが、これは昔の発音が残つた方言によるものではなく、すべてのケースが綴り字にひきずられた「誤回帰」によるものです。小学校などでの誤つた指導により発生してゐるものです。



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