補講303教室

特別授業:あふぐ、あふひ、あふむく、あふる、たふす、たふれる の発音について

 例へば「あふ」の古代から現代までの発音の変化は模式的には次のやうな流れと考へられます。

 アプ→破裂音が摩擦音化する→アフ
 ↓
 アフ→ハ行転呼→アウ
 ↓
 アウ→母音の重なりを避けるための長音化転呼→(ウがアの方向へ同化→アオ)→アォー(アーとオーの中間音)
 ↓
 アォー→安定な音への変化→オー
 ↓
 オー

 ところで「あふぐ」は鎌倉時代に入つて「アォーグ」と長音化されるところまでは行つたやうなのですが、その際に、例へば音便形「あふいで」は「アォーイデ」となり、折角母音の重なりを避けたのに今度は長音に母音が続くといふ収まりの悪い形が生じることになりました。
 そのせゐか実際にこの語は「あをぐ」と書かれることがありました。長音化しない発音が行なはれたことを示してゐます。
 そのうちに結局長音化の発音は廃れて現代の「アオグ」に至つたことになります。
 「あふひ(葵)」も同様に、また「たふす」も当時の音便形「たふいて」を想起すれば同様に理解できます。一方、名詞「扇」は「アォー」の後に母音はありませんから長音化が根付き易かつたわけです。

 なほ、一般的に動詞の語幹が長音で終はる不自然さを避けたといふ理解も成り立つでせう。



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