徒然草
「徒然草」は吉田兼好作の随筆。鎌倉時代末期に書かれ、その後随筆文学の傑作として長く読み継がれています。
作者自筆本は現存しません。
以下に冒頭部分および神無月の段を歴史的仮名遣いで示します。
つれづれなるままにひぐらしすずりにむかひて心にうつりゆくよしなしごとをそこはかとなくかきつくればあやしうこそものぐるほしけれ
いでやこの世にむまれてはねがはしかるべきことこそおほかめれ みかどの御くらゐはいともかしこし たけのそのふのすゑはまで人間のたねならぬぞやんごとなき 一の人の御ありさまはさらなり ただうどもとねりなどたまはるきははゆゆしと見ゆ その子むまごまでははぶれにたれどなほなまめかし それよりしもつかたはほどにつけつつときにあひ したりがほなるもみづからはいみじとおもふらめどいとくちをし
かみなづきのころ栗栖野といふところをすぎて、ある山里にたづね入ることはべりしに、はるかなるこけのほそみちをふみわけてこころぼそく住みなしたるいほあり。このはにうづもるるかけひのしづくならではつゆおとなふものなし あかだなにきくもみぢなどをりちらしたる さすがにす住む人のあればなるべし かくてもあられけるよとあはれに見るほどに、かなたのにはにおほきなるかうじの木のえだもたわわになりたるが まはりをきびしくかこひたりしこそすこしことさめて この木なからましかばとおぼえしか
江戸時代の仮名遣い(2)
京都大学電子図書館が公開する徒然草の江戸時代の写本・刊本5種類について上に青字で示した部分を見ると、それぞれ
本1 ものぐるおし なを くちおし をとなふ たははに
本2 ものぐるおし なを くちおし をとなふ たははに
本3 ものぐるをし なを くちおし をなふ(ママ) おりちらし たははに
本4 ものぐるをし くちおし をとなふ たははに
本5 ものぐるおし くちおし をとなふ たははに おぼへしと、主に「オ」音を中心に現代の水準の歴史的仮名遣いとは異なる表記が観察されますが、これだけ仮名を多用していながら全般に荒唐無稽とまでは陥っていないようです。もちろん基本的構造(系統的部分)は保たれています。
(語頭の「オ」音は「お」または「を」である可能性があります。また語頭以外ではさらに「ほ」である可能性もあります。これらは語源によって決まるものであり、助詞の「を」以外は文法によって推定することは出来ません。ちなみに、「ワ」「イ」「ウ」「エ」は助詞以外でもある程度文法によって推定することができるものです。)江戸時代の仮名遣い(3)「奥の細道」へ