速習版第七章に掲出した語について仮名遣ひの理由を簡単に説明してあります。
これは語源辞典ではありません。考へやすさを優先してゐるため厳密に正確な記述とはなってをらず、また根拠に複数説があるときは学問的妥当性よりも分かりやすさを基準に選んであります。
書かない 形容詞「ない」と同類。「なし・なき」の「し・き」をぞんざいに「イ」と発音してできた新語(イ音便)。「音便」とは、ぞんざいに発音されてできた新語形で、その発音通りに書かれた。以下同じ。
書きませう 「ませ+む」の「む」をぞんざいに「ウ」と発音してできた新語(ウ音便)。
書きさうだ・です・な・に 「相」の字音「サウ」。あるいは「さま(様)」の「ま」を「ウ」と発音するやうにしてできたウ音便。
書きたい 「たし・たき」のイ音便。
書きなさい 「なされ」のイ音便。あるいは「なさりませ」のイ音便の省略形。
書きやうがない 「様」の字音。
書いちゃ 「かきては」のイ音便より。
書かう 立たう 読まう 当たらう ・・・ 「かかむ」などのウ音便。
見よう しよう 上げよう ・・・ 「せむ」のウ音便「せう」が転呼した「ショー」などからできた助動詞「よう」。
書くだらう 「であらむ」のウ音便から。
書くでせう 「でせ(「です」の未然形)+う(「む」のウ音便)」。
書くさうだ・です 「相」の字音「サウ」。あるいは「さま(様)」のウ音便。
書くやうだ・です・な・に 「様」の字音。
書くらしい 「らし・らしき」のイ音便。
書くまい 「まじ」のイ音便。
書くふう 「風」の字音。
書くみたい 「みたし・みたき」のイ音便。
書いたらう 「たらむ・てあらむ」のウ音便。
書いてゐる 「居る」の元々の発音「wiru」。
書いてください 「くだされ」のイ音便。あるいは「くださりませ」のイ音便の省略形。
書いてしまふ 「ウ」で終る動詞の元々の発音。
書いてもらふ 「ウ」で終る動詞の元々の発音。
赤からう ・・・ 「からむ」のウ音便。
赤さうだ ・・・ 「相」の字音「サウ」。あるいは「さま(様)」のウ音便。
〜くらゐ・ぐらゐ 語源「座+居」より。
〜さへ 語源説「添へ」「そのうへ」「-へ(重)」。
〜ださうだ・です 「相」の字音「サウ」。あるいは「さま(様)」のウ音便。
〜だらう 「にてあらむ・であらむ」のウ音便。
〜ちふ(といふ) 「ウ」で終る動詞の元々の発音。
〜ぢゃ 〜ぢゃない 「では」の変化なのでダ行を保つ。
〜でせう 「でせ+む」のウ音便。
〜のやうだ・です・な・に 「様」の字音。
〜みたい 「みたし・みたき」のイ音便。
〜らしい 「らし・らしき」のイ音便。
●よく使ふ語句をまとめました。
あいつ 「あやつ」のイ音便。
あいにく 「あやにく」のイ音便。
ありがたう 「ありがたく」のウ音便。
あるいは 「ある+助詞い+は」。
いいえ この「い」と「え」は元々「ひ(フィ)」や「ヘ(フェ)」と発音されたものではない。感動詞は由来を考へる必要はなく、母音拍はあ行の仮名で書く。
〜といふ 「ウ」で終る動詞の元々の発音。
いっぱい 「一杯」の字音。
いらっしゃる 「い(入)らせらる」の変化。
〜ていらっしゃる 「てい(入)らせらる」の変化。
〜てゐる 「居る」の元々の発音「wiru」。
〜う(動詞の意志・推量) 「む」のウ音便。
ええ 感動詞。あ行の仮名で書く。
〜において(於いて) 「おきて」のイ音便。
おはやう 「おはやく」のウ音便。
おめでたう 「おめでたく」のウ音便。
〜てをり(居り) をります(居ります) 「居る」の元々の発音「woru」。
必ず 「かり(仮)ならず」の変化。下記打消しの「ず」参照。
〜からう 「くあらむ」のウ音便より。
きのふ 「先の日」などの変化。「ひ」の変化なのでは行の「ふ」。
けふ 「けひ」(「この日」の意)の変化。「ひ」の変化なのでは行の「ふ」。
〜ください 「くだされ」のイ音便。あるいは「くださりませ」のイ音便の省略形。
〜くらゐ、ぐらゐ 語源「座+居」より。
こいつ 「こやつ」のイ音便。
かうだ・かういふ・かうなる 「か(斯)く」のウ音便。
ごきげんよう 「ごきげんよく」のウ音便。
ございます 「ござります」のイ音便。
ごちそうさま 「馳走」の字音。
さやうなら 「さ様なら」。「様」の字音。
ぢゃ・ぢゃあ 「では」の変化なのでダ行を保つ。
〜ぢゃ(だ、では) 元「である」の変化なのでダ行。
〜ぢゃふ(でしまふ) 「でしまふ」の変化なのでダ行と「ふ」を保存する。
しゃうがない 「し様がない」。「様」の字音。
〜ず(打消し) 古語動詞「す」と関係する。
すいません 「済みません」のイ音便。
ずっと 「すっと」と関係する。
すなはち 語源説「その果て」「すなほぢ(直路)」「すぐなほ(直)さぬ内」。
せゐ(所為) 「所為」の字音syowiより。
そいつ 「そやつ」のイ音便。
さうだ・さういふ・さうなる 「さ」+引き音。引き音は由来がないのであ行の仮名で書く。
〜さうだ・さうな 「相」の字音「サウ」。あるいは「さま(様)」のウ音便。
たとへ 語源説「たぐひとひ(類問)」「立ち合ひ」。
たとへば 語源説「たぐひとふ(類問)」「立ち合ふ」。
〜たらう 「てあらむ」のウ音便。
〜だらう 「にてあらむ・であらむ」のウ音便。
〜ちゃふ(てしまふ) 「てしまふ」の変化なので「ふ」を保存する。
ちゃうど 「長度」の字音。
つい(うっかり) 「突き」のイ音便。
〜について 「付きて」のイ音便。
ついで(次いで) 「次ぎて」のイ音便より。
ついで(序で) 「次ぎ出」のイ音便。
つひに 語源説「尽きる日」「次ぐ日」「尽きるへ(辺)」。
〜っしゃい 「っしゃれ」のイ音便。あるいは「っしゃりませ」のイ音便の省略形。
〜でせう 「でせ+む」のウ音便。
どいつ 「どやつ」のイ音便。
どうだ・どういふ・どうなる 「ど」+引き音。引き音は由来がないのであ行の仮名で書く。
どうぞ 「ど」+引き音。引き音は由来がないのであ行の仮名で書く。
たうとう 「到頭」の字音。
どうも 「ど」+引き音。引き音は由来がないのであ行の仮名で書く。
〜のとほり 「通る」より。語源説「とほある(遠有)」「-掘る」。
なほ 「なほ(直)す」より。語源説「なは(縄)」「な(綯)ふ」。
〜なさい 「なされ」のイ音便。あるいは「なさりませ」のイ音便の省略形。
にいさん 「あに」より。引き音は由来がないのであ行の仮名で書く。
ねえさん 「あね」より。引き音は由来がないのであ行の仮名で書く。
はい 感動詞はあ行の仮名で書く。
〜はず 由来は矢筈の筈。語源「はすゑ(端末)」により「す」を濁る。
ふつう 「普通」の字音。
〜はう(方) 「方」の字音。
〜ませう 「ませ+む」のウ音便。
まづ 語源説「前出づ」「-はつ(初)」。
もう 「も」+引き音。引き音は由来がないのであ行の仮名で書く。
〜のゆゑ 語源「由る分け」あるいは「寄居」より、わ行を保つ。
〜よう(意志・推量) 「せむ」のウ音便「せう」が転呼した「ショー」などからできた助動詞「よう」。
〜やう(様) 「様」の字音。
ようこそ 「よくこそ」のウ音便。
やうす 「様」の字音。
やうやく 「ややく」に引き音がついたもの。または「やくやくの」ウ音便。いづれにしても「やう」。
〜らしい 「らし・らしき」のイ音便。
●現代文の中にわざとらしく書かれることが多い語の中には誤ってゐるものがあるので注意して下さい。
(誤) → 正
(言いたひ) → 言ひたい 「言ふ」の活用「言ひ」と「たし・たき」のイ音便。
(よゐこ) → よいこ 「よき・よし」のイ音便。
(かほり) → かをり 語源「香居り」より。
(どぜう) → どぢゃう 「土長」の字音より。 など
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