いろは歌等
字母歌(重複のない全仮名文字による手習い歌など)の代表的なもの
●あめつち(平安初期)
あめ つち ほし そら やま かは みね たに くも きり むろ こけ ひと いぬ うへ すゑ ゆわ さる おふせよ えのを なれゐて
天 土 星 空 山 川 峰 谷 雲 霧 室 苔 人 犬 上 末 硫黄 猿 生ふせよ 榎の枝を 慣れ居て
四十八文字。「」は「や行のえ」を表す。この頃は「え」と「」の発音は異なっていたので両方使われている。
●たゐに(伝源為憲作 西暦970年)
たゐにいて なつむわれをそ きみめすと あさりおひゆく やましろの うちゑへるこら もはほせよ えふねかけぬ
田居に出で 菜摘む我をぞ 君召すと 漁り追ひ行く 山城の 打ち酔へる子ら 藻は干せよ え舟繋けぬ
四十七文字。この頃は「え」と「」の発音が同じになっていたため、「え」しか使われていない。
●いろは(西暦900年代終盤)
いろはにほへと ちりぬるを わかよたれそ つねならむ うゐのおくやま けふこえて あさきゆめみし ゑひもせす
色は匂へど 散りぬるを 我が世誰ぞ 常ならむ 有為の奥山 今日越えて 浅き夢見じ 酔ひもせず
現代における唱え方:
イロハニホヘト チリヌルオ ワカヨタレソ ツネナラム ウイノオクヤマ ケフコエテ アサキユメミシ エヒモセス(ン)歌としての現代における読み方:
イロワニオエド チリヌルオ ワガヨタレゾ ツネナラン ウイノオクヤマ キョーコエテ アサキユメミジ エイモセズ仮に現代仮名遣い方式で表せば:
いろはにおえど ちりぬるを わがよたれぞ つねならん ういのおくやま きょうこえて あさきゆめみじ えいもせず四十七文字。前項に同じ。以後長くこれが仮名文字リストと意識される。
●あめふれ(本居宣長作 西暦1798年)
あめふれは ゐせきをこゆる みつわけて やすくもろひと おりたち うゑしむらなへ そのいねよ まほにさかえぬ
雨降れば 井堰を越ゆる 水分けて 安く諸人 下り立ち 植ゑし群苗 その稲よ 真穂に栄えぬ
四十七文字。すでに「い」「ゐ」、「え」「ゑ」、「お」「を」の発音は同じであったが書き分けた。
●とりな(坂本百次郎作 明治36年)
とりなくこゑす ゆめさませ みよあけわたる ひんかしを そらいろはえて おきつへに ほふねむれゐぬ もやのうち
鳥啼く声す 夢覚ませ 見よ明け渡る 東を 空色栄えて 沖つ辺に 帆船群れゐぬ 靄の中
「ん」を含め四十八文字。前項に同じ。五十音の一つとして「ん」が意識されている。
参考:や行の「え」について