補講109教室

特別授業:歴史的仮名遣ひ普及・確立の契機

 明治初頭、近代国家に不可欠な条件として国語の正書法制定が急務とされたとき、採るべき仮名遣ひとして考へられる選択肢は以下のごとくであつた。

  原理 具体 長所 短所 備考
1 伝統的(教養人の)表記 契沖(歴史的)仮名遣 従来の主な表記慣習に反しない。合理的根拠がある。 当代の発音との乖離がある。 契沖以来の研究により学問的信頼性が確立してゐた。(参照
1´ 定家仮名遣 従来の主な表記慣習に反しない。 当代の発音との乖離がある。一部根拠に問題がある。量的に不徹底である。 学問的には歴史的仮名遣ひの不完全版であることが知られてゐた。(参照
2 一般の実態    従来の主な表記慣習に反しない。 当代の発音との乖離がある。混乱してゐる。 不定、多様のため基準とすることは考へられなかつた。(参考
3 当代の発音に拠る (発音式仮名遣) 教育が容易である。 従来の表記慣習に反する。 標準音決定の困難があり、不適当とされた。また発音通りの表記は非常識と見られた。
4 上記の折衷       無原則と見られる。 後に1と3の折衷として「現代仮名遣ひ」が制定された。(参照
5 上記以外の原理          現実的なものはなかつた。

ハ行転呼・長音化転呼前提の表記など

 これらの事情に鑑みて半自動的に歴史的仮名遣ひの採用が決まり、学校教育に取り入れることで急速な普及を図ることとなつた。
 その後は根本に関はる改変はなく、昭和21年までに至る。

(字音仮名遣ひについてはこの限りではない。)

 参考:定家仮名遣ひ、契沖仮名遣ひ、歴史的仮名遣ひ、現代仮名遣ひ
    江戸時代の仮名遣ひ


 戻る 特別授業目録へ