の世界
はじめに
「風の又三郎」は宮沢賢治の童話の中でもひときわ明るい、リアリティーに富んだ力強い作品です。ファンタジーを扱いながら、季節も名残の夏、しかもほとんどが明るい昼間の情景で綴られ、他の作品に目立つような暗く冷たいセンチメンタルな雰囲気はほとんど一掃されています。文体も平易で凝り過ぎたところもありません。健康的な子供達の躍動に、読者も思わずものがたりの舞台に吸い込まれてしまうその魅力は、長い間子供も大人をも惹きつけて来ました。
昔読んだ記憶のある方なら、なんだか不思議な、無性に懐かしい世界をかすかにでも憶えていらっしゃるでしょう。是非もう一度大人の立場でお読みになってみて下さい。初めての方でもきっと、そのおおらかで何かしら豊かな、そしてはるかなかつての世界を、あなたなりの感慨とともに噛みしめられることでしょう。
そうです。「風の又三郎」は急速に失われてしまった「日本の」子供たちの精神世界(心象風景と言ってもよい)を他のどの文学作品よりも純粋な形で書き残すことに成功しているのです。
さて、そんな面白い作品なのに、また作者の代表作とも言われるのに「風の又三郎」ってなんだかちょっと影が薄くはありませんか?本屋さんへ行ってもどこへ行っても、またインターネットでも。
別の作品がうんともてはやされているのに比べると何といっても不可解です。
確かにこの作品は作者の他の童話のように"メルヘンチック"でもありませんし、可愛い動物たちが出てくるわけでもありません。またイタリア人みたいな名前のかっこいい男の子どころか、古臭い名前の田舎のボウズどもが汗臭く駈けずりまわっているだけです。それにしても女性ファンの多い「銀河鉄道の夜」や、教科書に載っているからでしょうか圧倒的人気の「やまなし」などに比べるとまるで故なく毛嫌いでもされているように僻みっぽい私には思えます。
しかし、ひょっとして皆さん、その本当の魅力をただ何かの行き違いでご存知ないだけなのではないでしょうか。(どんな行き違いだと尋ねられればちょっと困るのですが・・)
もしあなたがそうであったとしてもあるいはそうでなかったとしても、どうぞしばらくこのサイトに付き合ってみていただけないでしょうか。きっときっと、何かしら新鮮な発見があることと思います。
「風の又三郎」の楽しみ方はいろいろあります。ちょっと思い付くままに挙げてみましょう。
ものがたりのユニークな筋自体を楽しむ。
ものがたりの深層に潜むものは何か考えて楽しむ。
主人公の正体を追究して楽しむ。
ものがたり世界の内部に白昼夢のように入り込んでヴァーチャル体験を楽しむ。
作者独特の文体と表現を楽しむ。
ものがたりの背景である当時の東北の風土、美しい自然を実感して楽しむ。
ものがたりの舞台のモデルを探して楽しむ。
背景となっている風の神の民俗信仰について知るのを楽しむ。
風に関する記述について科学的に検証し楽しむ。
矛盾する記述についてあれこれ考えて楽しむ。
作品の細部にこだわり、マニアックに熟知するのを楽しむ。
ものがたりの複雑な成立過程を追究して楽しむ。
元になった別作品を読み、またその変貌のしかたを楽しむ。
関係する作品群を読み、全「又三郎」世界を俯瞰して楽しむ。
作者の実生活と作品の成立の関係を考えて楽しむ。
作品に関する様々な評価や考察を読んで楽しむ。
朗読して楽しむ。
暗誦して楽しむ。
聴いて楽しむ。
読み聞かせをして楽しむ。
映画、漫画、絵本などでも楽しむ。まだまだあるでしょうが、そんな楽しみ方のお手伝いを是非このサイトにさせて下さい。
願わくば、あなたがわずかにでも「風の又三郎」の世界の豊かさ、奥深さに触れられ、この作品への認識を新たにされることを・・・。
それではまず何はともあれ、あらすじからおさらいしてみることにしましょう。もし既にご存知でしたら
他に
登場人物
ものがたりの舞台
作品の成り立ち
「風の又三郎」の謎
風の又三郎クイズ
など、どれからごらんになっても構いません。