総目次
完全版とびら 手引き 総合辞書 字音仮名遣表 語の由来 例外動詞 原理 歴史 補講 練習してみよう(2) 練習してみよう 入口 練習してみよう(1) 練習してみよう(3) 問題1. 雨にも負けず 風にも負けず 雪にも 夏の暑さにも負けぬ 丈夫な体を持ち 欲はなく 決して怒らず いつも静かに笑っている。 一日に玄米四合と 味噌と少しの野菜を食べ あらゆる事を 自分を勘定に入れずに よく見聞きし 分かり そして忘れず 野原の 松の林の陰の 小さな茅葺きの小屋にいて 東に病気の子供あれば 行って看病してやり 西に疲れた母あれば 行ってその稲の束を負い 南に死にそうな人あれば 行って恐がらなくてもいいと言い 北に喧嘩や訴訟があれば つまらないからやめろと言い 日照りのときは涙を流し 寒さの夏はオロオロ歩き みんなにデクノボウと呼ばれ 褒められもせず 苦にもされず そういう者に 私はなりたい 宮沢賢治の原文とは異なります。 「デクノボウ」は「木偶の坊」です。 ↓ 独力で直し了へてからお進み下さい。 解答へ 問題2. 親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしている。小学校にいる時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かしたことがある。なぜそんなむやみをしたと聞く人があるかもしれぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りることは出来まい。弱虫やーい。とはやしたからである。小使におぶさって帰って来た時、おやじが大きな目をして二階ぐらいから飛び降りて腰を抜かす奴があるかと言ったから、この次は抜かさずに飛んでみせますと答えた。 親類のものから西洋製のナイフをもらって綺麗な刃を日にかざして、友達に見せていたら、一人が光ることは光るが切れそうもないと言った。切れぬことがあるか、何でも切って見せると請け合った。そんなら君の指を切ってみろと注文したから、何だ指ぐらいこの通りだと右の手の親指の甲をはすに切り込んだ。幸いナイフが小さいのと、親指の骨が堅かったので、いまだに親指は手に付いている。しかし傷跡は死ぬまで消えぬ。 解答へ 問題3. ある日の事でございます。御釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のようにまっ白で、そのまん中にある金色の蕊からは、何とも云えない好い匂が、絶間なくあたりへ溢れて居ります。極楽は丁度朝なのでございましょう。 やがて御釈迦様はその池のふちに御佇みになって、水の面を蔽っている蓮の葉の間から、ふと下の容子を御覧になりました。この極楽の蓮池の下は、丁度地獄の底に当って居りますから、水晶のような水を透き徹して、三途の河や針の山の景色が、丁度覗き眼鏡を見るように、はっきりと見えるのでございます。 するとその地獄の底に、建陀多と云う男が一人、ほかの罪人と一しょに蠢いている姿が、御眼に止まりました。この建陀多と云う男は、人を殺したり家に火をつけたり、いろいろ悪事を働いた大泥坊でございますが、それでもたった一つ、善い事を致した覚えがございます。と申しますのは、ある時この男が深い林の中を通りますと、小さな蜘蛛が一匹、路ばたを這って行くのが見えました。そこで建陀多は早速足を挙げて、踏み殺そうと致しましたが、「いや、いや、これも小さいながら、命のあるものに違いない。その命を無暗にとると云う事は、いくら何でも可哀そうだ。」と、こう急に思い返して、とうとうその蜘蛛を殺さずに助けてやったからでございます。 御釈迦様は地獄の容子を御覧になりながら、この建陀多には蜘蛛を助けた事があるのを御思い出しになりました。そうしてそれだけの善い事をした報には、出来るなら、この男を地獄から救い出してやろうと御考えになりました。幸い、側を見ますと、翡翠のような色をした蓮の葉の上に、極楽の蜘蛛が一匹、美しい銀色の糸をかけて居ります。御釈迦様はその蜘蛛の糸をそっと御手に御取りになって、玉のような白蓮の間から、遥か下にある地獄の底へ、まっすぐにそれを御下しなさいました。 解答へ 問題4. 吾輩は猫である。名前はまだない。 どこで生まれたかとんと見当がつかぬ。なんでも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていたことだけは記憶している。吾輩はここではじめて人間というものを見た。しかもあとで聞くとそれは書生という人間中でいちばん獰悪な種族であったそうだ。この書生というのは時々我々をつかまえて煮て食うという話である。しかしその当時はなんという考えもなかったからべつだん恐ろしいとも思わなかった。ただ彼の手のひらに載せられてスーと持ち上げられた時なんだかフワフワした感じがあったばかりである。手のひらの上で少し落ち付いて書生の顔を見たのがいわゆる人間というものの見始めであろう。この時妙なものだと思った感じが今でも残っている。第一毛をもって装飾されべきはずの顔がつるつるしてまるで薬罐だ。その後猫にもだいぶ会ったがこんな片輪には一度も出くわしたことがない。のみならず顔のまん中があまりに突起している。そうしてその穴の中から時々ぷうぷうと煙を吹く。どうもむせぽくてじつに弱った。これが人間の飲む煙草というものであることをようやくこのごろ知った。 この書生の手のひらのうちでしばらくはよい心持ちにすわっておったが、しばらくすると非常な速力で運転し始めた。書生が動くのか自分だけが動くのかわからないがむやみに目が回る。胸が悪くなる。とうてい助からないと思っていると、どさりと音がして目から火が出た。それまでは記憶しているがあとはなんのことやらいくら考え出そうとしてもわからない。 ふと気がついてみると書生はいない。たくさんおった兄弟が一匹も見えぬ。肝心の母親さえ姿を隠してしまった。その上今までの所とは違ってむやみに明るい。目を明いていられぬくらいだ。はてななんでも様子がおかしいと、のそのそはい出してみると非常に痛い。吾輩は藁の上から急に笹原の中へ捨てられたのである。 ようやくの思いで笹原をはい出すと向こうに大きな池がある。吾輩は池の前にすわってどうしたらよかろうと考えてみた。べつにこれという分別も出ない。しばらくして泣いたら書生がまた迎いに来てくれるかと考えついた。ニャー、ニャーと試みにやってみたがだれも来ない。そのうち池の上をさらさらと風が渡って日が暮れかかる。腹が非常に減ってきた。泣きたくても声が出ない。しかたがない、なんでもよいから食い物のある所まで歩こうと決心をしてそろりそろりと池を左に回り始めた。どうも非常に苦しい。そこを我慢して無理やりにはって行くとようやくのことでなんとなく人間臭い所へ出た。ここへはいったら、どうにかなると思って竹垣のくずれた穴から、とある邸内にもぐり込んだ。縁は不思議なもので、もしこの竹垣が破れていなかったなら、吾輩はついに路傍に餓死したかもしれんのである。一樹の陰とはよく言ったものだ。この垣根の穴は今日に至るまで吾輩がとなりの三毛を訪問する時の通路になっている。 解答へ 練習してみよう 入口へ 練習してみよう(1)へ 練習してみよう(3)へ 手引き 総合辞書 字音仮名遣表 語の由来 例外動詞 原理 歴史 補講 戻る 完全版とびら 総目次
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問題1.
雨にも負けず 風にも負けず 雪にも 夏の暑さにも負けぬ 丈夫な体を持ち 欲はなく 決して怒らず いつも静かに笑っている。 一日に玄米四合と 味噌と少しの野菜を食べ あらゆる事を 自分を勘定に入れずに よく見聞きし 分かり そして忘れず 野原の 松の林の陰の 小さな茅葺きの小屋にいて 東に病気の子供あれば 行って看病してやり 西に疲れた母あれば 行ってその稲の束を負い 南に死にそうな人あれば 行って恐がらなくてもいいと言い 北に喧嘩や訴訟があれば つまらないからやめろと言い 日照りのときは涙を流し 寒さの夏はオロオロ歩き みんなにデクノボウと呼ばれ 褒められもせず 苦にもされず そういう者に 私はなりたい
宮沢賢治の原文とは異なります。 「デクノボウ」は「木偶の坊」です。
↓ 独力で直し了へてからお進み下さい。
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問題2.
親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしている。小学校にいる時分学校の二階から飛び降りて一週間ほど腰を抜かしたことがある。なぜそんなむやみをしたと聞く人があるかもしれぬ。別段深い理由でもない。新築の二階から首を出していたら、同級生の一人が冗談に、いくら威張っても、そこから飛び降りることは出来まい。弱虫やーい。とはやしたからである。小使におぶさって帰って来た時、おやじが大きな目をして二階ぐらいから飛び降りて腰を抜かす奴があるかと言ったから、この次は抜かさずに飛んでみせますと答えた。 親類のものから西洋製のナイフをもらって綺麗な刃を日にかざして、友達に見せていたら、一人が光ることは光るが切れそうもないと言った。切れぬことがあるか、何でも切って見せると請け合った。そんなら君の指を切ってみろと注文したから、何だ指ぐらいこの通りだと右の手の親指の甲をはすに切り込んだ。幸いナイフが小さいのと、親指の骨が堅かったので、いまだに親指は手に付いている。しかし傷跡は死ぬまで消えぬ。
問題3.
ある日の事でございます。御釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のようにまっ白で、そのまん中にある金色の蕊からは、何とも云えない好い匂が、絶間なくあたりへ溢れて居ります。極楽は丁度朝なのでございましょう。 やがて御釈迦様はその池のふちに御佇みになって、水の面を蔽っている蓮の葉の間から、ふと下の容子を御覧になりました。この極楽の蓮池の下は、丁度地獄の底に当って居りますから、水晶のような水を透き徹して、三途の河や針の山の景色が、丁度覗き眼鏡を見るように、はっきりと見えるのでございます。 するとその地獄の底に、建陀多と云う男が一人、ほかの罪人と一しょに蠢いている姿が、御眼に止まりました。この建陀多と云う男は、人を殺したり家に火をつけたり、いろいろ悪事を働いた大泥坊でございますが、それでもたった一つ、善い事を致した覚えがございます。と申しますのは、ある時この男が深い林の中を通りますと、小さな蜘蛛が一匹、路ばたを這って行くのが見えました。そこで建陀多は早速足を挙げて、踏み殺そうと致しましたが、「いや、いや、これも小さいながら、命のあるものに違いない。その命を無暗にとると云う事は、いくら何でも可哀そうだ。」と、こう急に思い返して、とうとうその蜘蛛を殺さずに助けてやったからでございます。 御釈迦様は地獄の容子を御覧になりながら、この建陀多には蜘蛛を助けた事があるのを御思い出しになりました。そうしてそれだけの善い事をした報には、出来るなら、この男を地獄から救い出してやろうと御考えになりました。幸い、側を見ますと、翡翠のような色をした蓮の葉の上に、極楽の蜘蛛が一匹、美しい銀色の糸をかけて居ります。御釈迦様はその蜘蛛の糸をそっと御手に御取りになって、玉のような白蓮の間から、遥か下にある地獄の底へ、まっすぐにそれを御下しなさいました。
問題4.
吾輩は猫である。名前はまだない。 どこで生まれたかとんと見当がつかぬ。なんでも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていたことだけは記憶している。吾輩はここではじめて人間というものを見た。しかもあとで聞くとそれは書生という人間中でいちばん獰悪な種族であったそうだ。この書生というのは時々我々をつかまえて煮て食うという話である。しかしその当時はなんという考えもなかったからべつだん恐ろしいとも思わなかった。ただ彼の手のひらに載せられてスーと持ち上げられた時なんだかフワフワした感じがあったばかりである。手のひらの上で少し落ち付いて書生の顔を見たのがいわゆる人間というものの見始めであろう。この時妙なものだと思った感じが今でも残っている。第一毛をもって装飾されべきはずの顔がつるつるしてまるで薬罐だ。その後猫にもだいぶ会ったがこんな片輪には一度も出くわしたことがない。のみならず顔のまん中があまりに突起している。そうしてその穴の中から時々ぷうぷうと煙を吹く。どうもむせぽくてじつに弱った。これが人間の飲む煙草というものであることをようやくこのごろ知った。 この書生の手のひらのうちでしばらくはよい心持ちにすわっておったが、しばらくすると非常な速力で運転し始めた。書生が動くのか自分だけが動くのかわからないがむやみに目が回る。胸が悪くなる。とうてい助からないと思っていると、どさりと音がして目から火が出た。それまでは記憶しているがあとはなんのことやらいくら考え出そうとしてもわからない。 ふと気がついてみると書生はいない。たくさんおった兄弟が一匹も見えぬ。肝心の母親さえ姿を隠してしまった。その上今までの所とは違ってむやみに明るい。目を明いていられぬくらいだ。はてななんでも様子がおかしいと、のそのそはい出してみると非常に痛い。吾輩は藁の上から急に笹原の中へ捨てられたのである。 ようやくの思いで笹原をはい出すと向こうに大きな池がある。吾輩は池の前にすわってどうしたらよかろうと考えてみた。べつにこれという分別も出ない。しばらくして泣いたら書生がまた迎いに来てくれるかと考えついた。ニャー、ニャーと試みにやってみたがだれも来ない。そのうち池の上をさらさらと風が渡って日が暮れかかる。腹が非常に減ってきた。泣きたくても声が出ない。しかたがない、なんでもよいから食い物のある所まで歩こうと決心をしてそろりそろりと池を左に回り始めた。どうも非常に苦しい。そこを我慢して無理やりにはって行くとようやくのことでなんとなく人間臭い所へ出た。ここへはいったら、どうにかなると思って竹垣のくずれた穴から、とある邸内にもぐり込んだ。縁は不思議なもので、もしこの竹垣が破れていなかったなら、吾輩はついに路傍に餓死したかもしれんのである。一樹の陰とはよく言ったものだ。この垣根の穴は今日に至るまで吾輩がとなりの三毛を訪問する時の通路になっている。
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